オハイオの食を、ニューヨークやカリフォルニアのような華やかなレストラン文化と比べてはいけない。 もちろん、各都市には現代的な良いレストランがある。 しかし、オハイオの食の本質は、もっと地に近い。 市場、食堂、家族経営、移民の味、労働者の昼食、大学町のカフェ、湖畔の魚、ドイツ系のソーセージ、東欧の惣菜、甘いパイ。 この州の食は、観光のために作られた演出というより、暮らしから残ってきた味である。

だから、Ohio.co.jpの食ページは「おすすめレストラン10選」では足りない。 それではオハイオの深さが消えてしまう。 ここで必要なのは、食を地図として読むことだ。 クリーブランドでは市場と東欧系の記憶。 シンシナティではチリと川の都市の食堂文化。 コロンバスではGerman Villageと現代的な都市の食。 トレドではハンガリー系の記憶を持つTony Packo’s。 Lake Erieでは湖畔の魚と島のワイン。 Amish Countryでは大きな家庭料理と焼き菓子。 それぞれが、州の違う面を見せる。

シンシナティ・チリは、最初は奇妙で、あとから理解できる。

日本人旅行者にとって、シンシナティ・チリは驚きやすい料理である。 チリと聞けば、豆や肉を煮込んだ辛い料理を想像するかもしれない。 しかし、シンシナティではそれがスパゲッティの上にのる。 その上にチーズが山のようにかかる。 あるいはホットドッグにかかる。 それはテキサス風のチリでも、イタリア料理でもない。 シンシナティという街が作った、地域の暗号のような料理である。

最初の一口で、誰もが感動するとは限らない。 そこがいい。 シンシナティ・チリは、観光客に媚びた味ではない。 地域の人が食べ続けてきた味である。 スパイスの香り、細かく挽かれた肉、麺、チーズ、クラッカー。 食べているうちに、これは「変わった料理」ではなく、街の自画像なのだとわかってくる。

Camp Washington Chiliのような店に入ると、その感覚が強くなる。 そこには、地域の人、働く人、家族、旅行者が同じ空間にいる。 皿の上のチリは、きれいに飾られた料理ではない。 しかし、地域の力がある。 オハイオの食を理解するには、この「美食ではないが、忘れにくい味」を大切にしなければならない。

シンシナティ・チリ、チーズのかかったスパゲッティ、地元食堂を描いた日本風木版画スタイル
シンシナティ・チリは、洗練ではなく地域性で勝負する。皿の上に、川の都市の本音が出る。

クリーブランドの市場は、移民の食卓を保存している。

クリーブランドのWest Side Marketは、オハイオの食を読む上で最初に入れるべき場所である。 ここは、観光地である前に市場である。 肉、ソーセージ、チーズ、パン、惣菜、野菜、スイーツ。 それぞれの売り場が、都市に入ってきた人々の記憶を少しずつ残している。 市場を歩くと、クリーブランドが単なる工業都市ではなく、食卓の集合体だったことが見えてくる。

市場という場所は、街を説明するのに向いている。 なぜなら、食材は嘘をつきにくいからだ。 観光パンフレットの言葉より、ソーセージの種類、パンの匂い、惣菜の色、客の会話のほうが街の性格をよく表すことがある。 West Side Marketでは、東欧系、ドイツ系、地中海系、地元アメリカの味が同じ建物の中に並ぶ。 それは、移民の国という言葉を、抽象ではなく食卓として見せる。

クリーブランドでは、Slyman’sのコーンビーフやMabel’s BBQのような店も重要になる。 Slyman’sは、皿の大きさと肉の量で街の労働感を見せる。 Mabel’s BBQは、BBQというアメリカ的な食を、クリーブランドの東欧系の記憶と重ねて再編集する。 そこに、古い市場と新しい都市の食の関係が見える。

コロンバスは、German Villageと市場とカフェで食べる。

コロンバスの食は、名物一発ではない。 それがコロンバスらしい。 州都であり、大学都市であり、成長する街であるコロンバスでは、食も複数の顔を持つ。 German Villageでは、Schmidt’sのようなドイツ系の記憶が残る。 DowntownではNorth Marketが食の入口になる。 Short NorthやItalian Villageでは、カフェや現代的なレストランが街の伸び方を映す。

Schmidt’s Sausage Hausは、コロンバスの食を語るうえでわかりやすい存在である。 German Villageという街区そのものが、古い移民の記憶と都市保存の物語を持っている。 そこにソーセージ、ザワークラウト、ジャーマンポテト、クリームパフのような食が重なる。 これは観光客向けに整えられた楽しさでもあるが、同時に街の記憶でもある。

North Marketは、コロンバスの現在形を見せる。 市場の中には、多様な食の選択肢があり、昼食にも、軽い食べ歩きにも、旅の途中の休憩にも使いやすい。 West Side Marketがクリーブランドの古い移民都市の重みを見せるなら、North Marketはコロンバスの都市としての成長と食の多様性を見せる。 同じ「市場」でも、街によって響き方が違う。

トレドのTony Packo’sは、地方都市の名物が神話になる瞬間である。

Tony Packo’sは、トレドを食で記憶させる強い存在である。 ハンガリー系のホットドッグ、地元名物、サイン入りホットドッグ・バンズ、テレビ文化との結びつき。 こうした店は、単に「おいしいかどうか」だけで評価するものではない。 それは、その都市が自分をどう語ってきたかを見る場所である。

地方都市には、こういう名物店が必要だ。 大都市のレストランランキングには入らなくても、その街にとっては象徴である。 家族が行き、観光客が行き、地元の人が懐かしみ、街の記憶が積み重なる。 Tony Packo’sは、トレドをただの通過点にしない。 食べることで、「ここにも物語がある」と思わせる。

Lake Erieでは、魚とワインと水辺の空気を食べる。

エリー湖の食は、都市の食とはリズムが違う。 ここでは、水辺で食べること自体に価値がある。 Put-in-BayのThe Boardwalkで湖を見ながら食事をする。 Heineman’s Wineryで島のワインを飲む。 Port ClintonやSandusky周辺で魚やカジュアルな湖畔料理を食べる。 その味は、皿の上だけでは完結しない。 風、フェリー、夏の光、湖の匂いと一緒に記憶される。

オハイオを内陸州だと思って旅をしていると、エリー湖の食は意外性がある。 島があり、ワイナリーがあり、魚があり、灯台があり、遊園地がある。 そこで食べるものは、豪華でなくてもよい。 むしろ、湖畔のテーブルで、風を受けながら食べることが大事になる。 Lake Erieの食は、味覚だけではなく気候の体験である。

Amish Countryは、大きな皿と家族の時間でできている。

オハイオの食を語るなら、Amish Countryも外せない。 Walnut CreekやBerlin、Millersburg周辺の食は、都市のレストラン文化とはまったく違う。 そこには、家族、農村、焼き菓子、鶏肉、マッシュポテト、麺、パイ、ゆっくりした食事の時間がある。 すべてが観光用に純粋であるという意味ではない。 しかし、都市の速度から離れて、食事を大きな家族のテーブルとして考える感覚が残っている。

Der Dutchmanのような店は、オハイオの食の別の側面を見せる。 洗練された小皿料理ではない。 量があり、温かく、わかりやすく、甘いものが強い。 その率直さがいい。 オハイオには、都市の市場も、川のチリも、湖の魚も、こうした農村的な食卓もある。 だから一つの料理で州を説明することができない。

オハイオの食は、派手なスター料理ではない。 それは、市場の通路、食堂のカウンター、湖畔のテーブル、家族の大皿に残る州の記憶である。

オハイオの食は、都市ごとに違う。

クリーブランドでは、West Side Marketから始めたい。 市場を歩き、Slyman’sでコーンビーフを食べ、夜にMabel’s BBQやEast 4th周辺へ行く。 この組み合わせだけで、移民の記憶、労働者の食、現代的な都市の食が見えてくる。

シンシナティでは、Camp Washington Chiliのような地域の味を食べ、 Findlay MarketやOver-the-Rhineのレストランへ広げる。 チリを食べることは、ただ名物を試すことではない。 「この街だけの味を、なぜ人は食べ続けるのか」を考えることだ。

コロンバスでは、North MarketとGerman Villageを組み合わせる。 Schmidt’sでドイツ系の記憶を食べ、North Marketで現在の多様性を感じる。 さらにShort NorthやItalian Villageのカフェやレストランへ行けば、コロンバスが成長する都市であることが食でも見えてくる。

トレドではTony Packo’s。 Lake ErieではPut-in-Bay、Kelleys Island、Port Clinton、Sandusky。 Amish CountryではDer Dutchmanや地元のベーカリー。 こうして食をたどると、オハイオは急に大きくなる。 都市と農村、湖と川、移民と家族、労働と休暇。 その全部が一つの州の中にある。

日本人旅行者へのすすめ。

オハイオを旅する日本人には、食を「B級グルメ」として片づけないでほしい。 シンシナティ・チリも、巨大なコーンビーフも、ソーセージも、パイも、湖畔の魚も、 高級料理の基準で見ると誤解しやすい。 これは、土地の味である。 そして土地の味は、ときに洗練よりも長く記憶に残る。

食べる順番も大切である。 クリーブランドでは市場から。 シンシナティではチリから。 コロンバスではGerman VillageとNorth Marketから。 Lake Erieでは水辺で。 Amish Countryでは昼食を大きく。 その土地らしい場所で食べると、同じ料理でも意味が変わる。

そして、店の公式サイトで営業時間を確認してほしい。 オハイオの名物店には、日曜休みや短い営業時間の店もある。 市場は曜日によって空気が変わる。 島や湖畔は季節営業も多い。 食の旅は、計画が雑だと名店にたどり着けない。 逆に、少し丁寧に組めば、旅の満足度は大きく上がる。

Ohio.co.jpのFoodページは、これからさらに育てられる。 各都市ページとつなぎ、料理ごとの特集を作り、市場、チリ、湖畔、Amish Country、German Villageを個別に深掘りできる。 食は、オハイオを読者の身体に届ける最短ルートである。 文章で説明する前に、皿の上でわかる。 そこが強い。